千葉大学大学院医学研究院
アレルギー・臨床免疫学
千葉大学病院
アレルギー・膠原病内科
Systemic Lupus Erythematosus; SLE
全身性エリテマトーデスは、全身の皮膚、血管、関節、内蔵がおかされる慢性・炎症性の自己免疫疾患で膠原病のひとつです。
英語ではsystemic lupus eryhtematosusといい、頭文字をとってSLEと呼ばれます。
systemicとは「全身の」という意味で、この病気が全身のさまざまな場所に、多彩な症状を引き起こすということを指しています。
lupus erythematosusとは、皮膚に出来る発疹が「狼に噛まれた痕(狼瘡)のような赤い紅斑」だという意味です(lupusとはラテン語で狼の意味)。
全身性エリテマトーデスでは、発熱、全身倦怠感などの炎症を思わせる症状と、関節、皮膚、内臓などのさまざまな症状が一度に、あるいは次々に起こってきます。
女性の発症率は男性の約10倍で、20~40歳代に多く見られます。
全身性エリテマトーデスの発症には遺伝要因が関係すると考えられています。
しかし、一卵性双生児で両者に全身性エリテマトーデスが発症する頻度は30%程度とされています。
遺伝子が同じでも30%しかこの病気が起こらないわけですから、残りの70%は何らかの環境要因が原因だろうと考えられます。
なぜ自己免疫反応が始まるのかは分かっていません。
ある種の薬剤の影響で自己免疫反応がおこることがありますが(薬剤性ループス)、住環境や食事など特別な環境が発症に関係しているという証拠は見つかっていません。
紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)、風邪などのウイルス感染、怪我、ストレス、外科手術、妊娠・出産などが、発症や病状悪化の誘因となることがあるようです。
発熱、全身倦怠感、易疲労感、体重減少などの全身症状や、関節の痛み、顔や手足の赤い皮疹などの皮膚関節症状が多くの患者さんに見られます。
皮疹では、両側の頬に蝶が羽を広げたような形で出現する蝶形紅斑が特徴的です。
コインのようなディスコイド疹も、この病気に特徴的で、顔面、耳、首のまわりなどに好発します。
また、脱毛、レイノー現象(寒さやストレスで手指が白くなったり、紫色になったりする)や、口内炎もみられます。
口内炎は、痛みが無く自分で気付かないこともしばしばです。
広範囲にわたるリンパ節の腫れは、特に小児期、青年期の患者さんに高い頻度でみられます。
強い日光(紫外線)にあたった後に、皮膚に赤い発疹、水膨れができる、あるいは熱が出るという日光過敏症もよく見られます。
この症状が、病気の始まりであることも少なくありません。
これに、以下のようなさまざまな内臓、血管の病変(これは一人一人異なります)が加わります。
この内臓の症状が全くない軽症のタイプの人もいます。
腎臓が侵されると、蛋白尿が現れ、むくみや高血圧が見られます。
胸膜炎や心膜炎を起こして、肺や心臓の周りに水がたまることがあります。
また、肺そのものに炎症が起きると、胸の痛み、息切れ、動悸、呼吸が速くなるなどの症状が現れます。
また稀に肺の中に出血をきたして血痰や呼吸困難が出現することもあります。
冠動脈の炎症で狭心症になったり、心内膜の炎症で弁膜症が起きたりして、心不全に至ることがあります。
脳に障害が及んだ場合(中枢神経ループス)、頭痛、軽度の思考障害、人格変化、脳卒中、てんかん発作、重度の精神障害(精神病)などさまざまな病態を引き起こします。
血栓や塞栓によって脳や肺の動脈の血流が障害されることもあります。
以下の11項目の症状のうち4つ以上該当すれば、全身性エリテマトーデスと診断されます。
診断が付いた後も、内臓・血管病変の存在が疑われる場合は、病気の重症度や治療方針を決めるためにさらにCT検査や超音波検査、髄液検査など精密検査を行う必要があります。
糸球体腎炎による腎障害が疑われる場合は、腎生検が必要になります。
血液検査で血液中に抗リン脂質抗体が検出されれば、血栓症のリスクがあることがわかります。
軽症のときは非ステロイド系の薬で炎症を抑えます。
重症のときは入院して、副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン)や免疫抑制剤を使用します。
副腎皮質ステロイド剤は、この病気の特効薬として知られています。
この薬が使用されるようになり、全身性エリテマトーデスの治療成績は飛躍的に進歩しました。
免疫抑制剤が使われるようになって病気のコントロールはさらに良好になってきています。
しかし、病型によっては、これらの治療が効きにくいものもあります。
副腎皮質ステロイド剤は通常最初4週間から6週間多めに服用し、病状を見ながら徐々に減らして一日あたり5?10mg前後を長期に飲み続けます。
副腎皮質ステロイド剤が、効果不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制剤を使うことがあります。
また病状によってはステロイドパルス療法、血漿交換療法などを行うこともあります。
これらの治療薬は有効ですが、危険な副作用をともなうので、その使用には十分な注意が必要です。
また、血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併している患者さんでは、アスピリン、ワーファリンなどの内服によって、血栓の予防が行われます。
日常の注意としては、日光に過敏で、発症を促すので、なるべく皮膚を紫外線に当てないようにします。
スポーツや海水浴のあとなどに発症する、または悪化して発見されることが多いので、夏は帽子や長袖のシャツを着用し、直射日光を避けるようにしましょう。
また、肺炎などの感染症を併発しやすいので、風邪をひかないように注意します。
臓器障害の広がり、重さによって、病気の経過も異なります。
関節炎や皮膚症状だけの患者さんは、薬剤によるコントロールもつけやすく、健康な方とほとんど変わらない、普通の生活が出来ることも珍しくありません。
一方、腎臓、中枢神経、血管炎などのある患者さんでは、多種類の薬剤を、長期にわたって使わなければならないことがあります。
しかし、治療成績は年々改善され、数十年もこの病気と付き合っている患者さんも増えてきました。
そのため、高齢化に伴って起こってくる生活習慣病(動脈硬化、糖尿病、高血圧など)などに対する対策も必要です。