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齋藤康
齋藤康 プロフィール

齋藤氏の大きな業績として、コレステロール低下薬「リバロ」がある。その成功には師の愛情が注がれていることを知る。

「当時の私は、その時に使われていたものより強いコレステロール低下を示す薬を作れるのではないかというアイデアがありました。そこで、ボスに相談したのです。沈黙したまま私の話を聞いたボスは『お前の考えと予測は正しいと思う』と答えてくださった。『それが薬になるのではないかと考えるのは当然だ。どんどんやれ』と。『ただし、この薬で病気を治し、人を救うのだという一心のみで当たれ』とも言われました」
「先生は研究者として特許をもつことの大切さを知りながらも、若い研究者が特許を得る作業を並行して行うことが当時は制度的にも整っておらず、特許を取得することに苦労されていたボスは、嫌な思いも経験されたのだと思います。そうした状況に、私が投げ込まれることを案じたのでしょう。『お前は純粋な研究者の道を行け』と方向づけてくださった。ですから当時の私は特許をとるよりも、研究者としての自由を確保したのです」
医の道はひたすら厳しく、理論通りに運ぶものではない。それを突き進むには一途な情熱こそが、能力以上に大きな力となる。

「人間の体は複雑です。明らかなメカニズムをもとに薬を作ったとしても、それが本当に効くかどうかは、患者さんに服用していただかねば分からない。もしも効果がなかったならば、その薬には何の意味もありません。それが医の道の厳しさというもの。これはボスの教えでもあります」
「『自分はそんなことができる人間ではない』などと、自分を過小評価することがある。でも素晴らしい研究成果を上げた人たちだって、ただ一途な思いで研究を重ね、気付いたら誰も成し遂げられなかった業績を作り上げていた。そういうものだと思うのです。それは決して能力の差ではない。対象に傾ける、情熱の違いなのだと思うのです」
人やモノと出会い、その一瞬の感激を増幅できるか否か。それはその後の展開を左右する大きな要素となる。

「医学との関わりを持とうと思うときには『この患者さんを救いたい』『この病気を治したい』そうしたきっかけに出会い、そこに情熱を傾けることが大事だと思うのです。そしてその情熱とは、その対象に出会えるかどうかだと思うのです」
「出会いのショック、出会いの感激をいかに増幅するか。それはその人自身の資質であり、才能です。日頃から疑問を追及したり、不思議なことに思いを馳せてみたり。そうした積み重ねの中から、感激は生まれるものでしょう。私の場合でいえば、若い頃に出会ったボスの論文。あれには本当に強烈な衝撃を受けました。今でも鮮明に覚えています」
「大切なことは、まず素晴らしい師に出会うということ。それが非常に大きいのではないでしょうか。私自身の経験からしても、それはとても大切なことだと思っています」
99の間違いを積み重ねた上でたった一つの正解にたどりつく。そこへ至る道の厳しさとともに、限りない愛情を教えられた師との出会い。

「『10倍の哲学』ともいうべき口癖がボスにはありました。実験でも何でも、人の10倍やれ。10倍の時間、10倍の試薬、10倍の金を使ってやってみろ。結果の吟味も、人の10倍厳しくしろ。そうすれば自分だけの結論を出せるはずだ、というのです。これは叩き込まれました」
「やがて千葉大学で若い研究者たちを指導することになり、ボスのもとを離れることになります。そのとき『若い者には降るような愛を注げ』と言われました。雪の降る日に空を見上げてみろ。顔には雪が降りおりてくるだろう。その雪はすぐに溶け、水滴になり、やがて流れ落ちてしまう。それでも次から次へと、雪は降りおりてくるだろう。そんな愛情を注げ。それが、これからお前が指導者としてやるべきことだと言われました。これは今も私にとって、かたときも忘れることのない言葉です」
大学というものは、まず第一に学生のためのものでなければならない。施設も環境も、学生たちが存分に学び、遊び、楽しく過ごせるものであるべきだ。

「私は学生が好きなのだと思います。若い彼らは体系だった理論よりも、ものごとをもっと断片的にとらえているようにみえます。
その断片的なひと言ふた言というのが、とても刺激的で、示唆に富んでいるのです。昼休みなどにキャンパスをうろうろと散歩していると、時おり話しかけてくる学生がいます。中には『学長に言いたいことがあるんですけど』などと言い出す者もいる。話の内容はいろいろですが、非常に参考になる、そして糧になるのです」
「そうした声を聞けるということは、学生との距離がとにかく近いということです。これはとても嬉しいことですし、さらにそうした環境を高めていきたいとも考えていました。とにかく学生を一番に考えたい。何をやるにも、勉強も遊びも、学生が楽しく過ごせるようなキャンパスにしたいと考えてきました」
産業界と連携しながら大学の社会的な使命を果たし、同時にイノベーターたらんとする若者たちが育っていくための環境を整備したい。

「本学は治療学という分野での伝統的な力があります。その力を発揮して、単なるメカニズムの解明だけでなく、最終的に『病気を治す』というところまで見通した役割を担っていきたいと思います。たとえばアルツハイマーをどうするか、認知症をどうするか。ガンをどうするか。まだまだ判らないところの多い疾病は数多くあります。そこに果敢に挑戦し、治療への道を切り拓いていっていただきたい。そして、それを可能にする人材が育つことのできる大学であって欲しいと思います。
根っこや若葉が伸びていくには時間がかかるし、環境も必要でしょう。私たちは、その芽を育てたい。芽が育つ環境を整えていきたいのです」
「医学を志す若者に対しては『病気を治したい』『患者さんを救いたい』という思いを持って、ことに当たれる自分であってほしいと思います。そしてひとたびこの道に入ったならば、妨害や阻害に遭ってもへこたれず、自身の考えを持ち続けなさい。余計なことは考えず脇目もふらず、ひと筋に邁進しなさい。その道を突き進みなさい。そんな時を持って欲しい。」


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