研究テーマA. 寄生性真核生物が持つ多様なミトコンドリアの機能解析
ミトコンドリアは、ほとんどの真核生物においてエネルギー転換を担う、細胞の生存に必須の細胞小器官(オルガネラ)である。近年では、活性酸素の除去やアポトーシス、オートファジーといった細胞の生死を調整する重要な機能もミトコンドリアが制御していることが明らかにされている。ミトコンドリアは、細菌の細胞内共生が起源とされており、その細菌由来の”ミトコンドリアゲノム”(mtゲノム)を持つ。
寄生性真核生物は、宿主動物の体内環境と終宿主(もしくは外部環境)に適応するために、複雑な生活環を強いられている。代表的な生物に、蚊が媒介するマラリア原虫やトキソプラズマ、クリプトスポリジウム、トリパノソーマ、赤痢アメーバが存在する。これら寄生性真核生物のミトコンドリアの機能は、宿主動物細胞のそれと異なる。
マラリア原虫では、赤血球寄生期において、ミトコンドリアのクリステ構造が確認できず、ATP産生能が乏しい。また、クリプトスポリジウムや赤痢アメーバはmtゲノムを完全に喪失しており、ミトコンドリアの代表的機能であるTCA回路および酸化的リン酸化経路が存在しない。
これらは、真核生物のミトコンドリアが、自由生活から寄生性へと適応進化する過程でその機能を大胆に多様化しうる事を意味する。我々は、この多様化したミトコンドリアが持つ、動物宿主ミトコンドリアとは異なる性質や機能の全貌の解明を目指している。
共同研究:杏林大学、東京大学、東京医科歯科大学、長崎大学
研究テーマB. 寄生虫の体内移行経路・臓器特異性・接着機序の解析
寄生虫は動物宿主の体内で種々の臓器に播種していくがその分子メカニズムは不明である。また、寄生虫は臓器特異性を示すことが多いが、その分子メカニズムもまた不明である。彼らは、宿主の種々の生体防御反応を回避しており、人類およびその祖先とともに数百万年間共存してきた。
血液あるいはリンパ液を介して全身もしくは特定臓器に寄生虫が侵入する場合に、多様な臓器微小血管内皮細胞に接着することは、寄生虫感染において鍵となる現象である。血管内皮細胞には様々な接着因子が存在し、寄生虫侵入時に影響を及ぼす。これにより、本来漏出しない網膜血管から血清成分が漏出したり、血管周囲に細胞浸潤をきたす血管炎を起こすことが知られている。これらの事実から、我々は、寄生虫とその第一侵入経路である血管内皮細胞との相互関係を分子レベルでより詳細に解明することを目指している。
また、組織透明化技術と光シート蛍光顕微鏡を利用した、寄生虫の動物宿主内における臓器播種メカニズムの解析も実施している。
共同研究:東京大学医科学研究所、新潟大学脳研究所
研究テーマC. 野生動物における寄生虫感染のフィールド調査
多くの寄生虫は、その生活史の中でヒトのみならず、野生動物にも寄生する。したがって、野生動物における寄生虫感染の実態を把握することは、衛生管理上重要な課題である。我々は、野生動物に寄生する寄生虫の実態を把握するためにフィールド調査を実施している。
共同研究:東京農業大学、アスンシオン大学(パラグアイ)、アフマド・ベロ大学(ナイジェリア)
研究テーマD. 臨床医学分野への応用研究
上記の基礎的研究を基盤とし、臨床医学分野への応用研究として、先天性トキソプラズマ症、後天性トキソプラズマ症(臓器移植・エイズによる日和見感染症としてのトキソプラズマ脳炎)、感染性ブドウ膜炎、寄生虫感染症の診断・分子疫学調査なども行っている。