千葉大学大学院医学研究院
先進予防医学共同専攻・運動器疼痛疾患学教室
2025/04/11
この度、上記臨床研究が査読付き国際ジャーナルであるCureusにて出版されましたのでご報告致します。 (臨床研究のお知らせへのリンク)
タイトル
Medial Meniscal Extrusion After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction (ACLR) Associated With Meniscal Repair and Preoperative Extrusion
著者
Ito R, Watanabe S, Sakamoto T, Toguchi K, Horii M, Kimura S, Yamaguchi S, Ohtori S, Sasho T
出版社
Cureus. 2024 Sep 23;16(9):e69987.
doi: 10.7759/cureus.69987.
PMID: 39445299; PMCID: PMC11497756.
<研究内容のご紹介>
【ACL再建術後の外傷後変形性関節症の発生】
スポーツなどで受傷することがある前十字靭帯断裂は、膝が不安定になり将来変形性膝関節症を罹患してしまう可能性が高くなります。前十字靱帯再建術を施行しても割合は下がるものの将来的には外傷後変形性膝関節症を罹患すると言われております。
【MME内側半月板逸脱とは】
内側半月板逸脱(Medial Meniscal Extrusion:MME)とは、内側半月板が本来あるべき位置から外側に押し出される状態のことで変形性膝関節症の早期症状の一つとされています。
(Ito R et al. 論文より引用改変)
【本研究の意義】
前十字靱帯損傷時と再建術後の内側半月板逸脱量の関係を調査(術前後での変化)
術後のMMEに影響を与える因子を調査
→ 今後、MMEを用いたACL再建術の評価を行う際に考慮すべき因子を同定
【研究の方法】
2016年から2021年8月に前十字靭帯再建術を施行した患者様を対象とし、術前と術後1年の内側半月板逸脱量を調査しました。また影響を与えると考えられる内側半月板損傷の有無、さらに半月板縫合の有無、また、年齢、性別、BMIも調査しました。
【結果】
下の表は術前後での変化を見たものです。半月板の損傷や処置方法によって分類しています。ここでは半月板損傷がない群(N/N)、有ったが縫合する程ではない安定損傷群(I/N)、不安定のため縫合した群(I/R)のすべてにおいて術前よりも有意に術後に大きなMMEが計測されました。
(Ito R et al. 論文より引用)
つまり、一度、前十字靱帯損傷を起こすと、半月板損傷を伴うかどうかにかかわらず、再建術を施行しても術後内側半月板逸脱は進行するという結果でした。
次に、術後MMEに動のような因子が影響をしているのかを表したのが次の表(多変量解析の結果)です。
|
Parameter estimate(B) |
Lower limit 95% CI of (B) |
Upper limit 95% CI of (B) |
P value |
Age(years) |
0.002 |
-0.005 |
0.010 |
0.49 |
BMI(kg/m2) |
-0.017 |
-0.043 |
0.009 |
0.20 |
Preoperative MME(mm) |
0.701 |
0.579 |
0.823 |
<0.001* |
Sex |
-0.019 |
-0.207 |
0.168 |
0.838 |
I/N (N/Nを基準) |
0.016 |
-0.186 |
0.218 |
0.876 |
I/R (N/Nを基準) |
0.466 |
0.245 |
0.687 |
<0.001* |
(Ito R et al. 論文より引用)
術後1年のMMEには、術前MMEと内側半月板の不安定性損傷あり縫合した群(I/R)であることが影響していました。
【まとめ】
前十字靭帯再建術において、術後1年内側半月板逸脱は、術前内側半月板逸脱よりも有意に大きい結果でした。術前から内側半月板逸脱が大きいことや内側半月板損傷が不安定で縫合を行った症例であることが術後1年の内側半月板逸脱が大きいことと有意に関連していました。
本研究で得たこれらの結果は、過去の文献と矛盾ない結果であり、ACL損傷の病態の解明に寄与するものであると考えられます。また、ACL再建術の術後の評価として術後MMEを使用する場合に、考慮すべき点を示せましたので、今後の研究に活かしていければと思います。
(本研究成果は’’Cureus: Journal of Medical Science’’にてpublishされ、無料公開されています。下記リンクよりご覧いただけます。)
本研究は、多くの患者様が当院での治療を受けていただいたことで実施することができました。今後も皆様へ最良の医療を提供すべく大学病院として臨床・研究・教育に励んで参ります。是非ご理解ご協力の程宜しくお願い申し上げます。
整形外科 伊藤 竜/渡邉 翔太郎 拝