研究・業績

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基礎研究

血液研究室のご紹介

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千葉大学血液内科では、血液疾患を診療する医師としての視点を大切にしながら、患者さんの予後向上さらには病気の制圧を目標として、世界の医学や科学の発展に貢献出来るような質の高い研究を行うべく日々取り組んでおります。

近年の血液悪性疾患に関する研究および治療の進歩はめざましく、他の疾患分野に先駆けて実用化されてきた検査法や治療法も数多く存在します。そのような中、少しでも臨床に貢献できるような研究を行うことを目指しています。

POEMS症候群の病態解明

POEMS症候群(Crow-Fukase症候群、高月病)はモノクローナル形質細胞の存在を基盤に、多発神経炎による末梢神経障害、臓器腫大、浮腫・胸腹水、皮膚症状、M蛋白血症などを呈する全身性疾患です。特に末梢神経障害が患者さんのADLを障害し、適切な治療が行われなければ四肢麻痺や多臓器不全に至り、予後不良の経過を辿ります。稀な疾患ではありますが本邦に比較的頻度が高く、我が国の深瀬先生や高月先生がその同定・病態の定義に多大な貢献を果たしてきました。千葉大学の血液内科と神経内科では本疾患に対して、形質細胞の悪性腫瘍である多発性骨髄腫に準じた治療法である自家末梢血幹細胞移植やサリドマイドなどによって、末梢神経障害と生命予後を改善しうることを明らかにしてきました(Nakaseko C. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2014. Kuwabara S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012)。しかしながら再発再燃例も認められ、新たな治療法の確立が必要であると考えられます。本疾患の病態には、M蛋白を産生するモノクローナル形質細胞が関与していると考えられているものの、その機序は不明のままです。また本疾患に特徴的な所見として、血中の血管内皮増殖因子(VEGF)が異常高値となり病勢を反映するマーカーとなっていますが、その産生細胞は未だ同定されておりません。そこで当科では、POEMS症候群の新規治療法確立を目指して、特に骨髄中の形質細胞に着目して本疾患の分子病態解明に取り組んでいます。

 正常造血および悪性腫瘍におけるLR11の解析

 LR11(SORL1)は、LDL受容体ファミリーの一種であり、共同研究者である武城英明先生(現:東邦大学医療センター佐倉病院 教授)らが同定した分子で、これまでは主に動脈硬化やアルツハイマー病といった分野での研究が進められてきました。我々は、このLR11分子が正常造血細胞や白血病細胞に発現している事を明らかにし、さらに、可溶型LR11が白血病患者の血清中で著明に上昇している事を報告してきました(Sakai et al. Clin Chim Acta. 2012 Oct 9;413(19-20):1542-8.)。さらに我々は、LR11は正常造血幹細胞や白血病細胞などの表面でuPAR(urokinase-type plasminogen activator receptor; 血液の分野ではCD87としても知られています)と結合し、細胞の接着や遊走に関与する事を解明しました(Nishii et al. J Biol Chem. 2013 Apr 26;288(17):11877-86.)。現在、積水メディカル株式会社の開発したLR11 ELISA測定キットを用い、多施設共同研究として、血清中の可溶型LR11と白血病および悪性リンパ腫の予後などに関する検討を行っております。さらに基礎的検討としてLR11ノックアウトマウスや、レンチウイルスによるLR11ノックダウン、LR11過剰発現系などを用いて白血病発症や治療抵抗性のメカニズムへのLR11の関与を解明すべく研究を続けています。

 

図1 LR11の模式図

LR11は膜表面上に存在するが、TACEなどのプロテアーゼによって切断され可溶型LR11となる。
LR11とuPARとIntegrinが複合体を形成し、細胞接着や遊走などに関与する。

図2 フローサイトメトリーによる白血病患者でのLR11発現解析

白血病細胞の表面にLR11が発現している事がフローサイトメトリーによる解析で明らかとなった。

多発性骨髄腫における薬剤耐性機序の研究

 多発性骨髄腫は、形質細胞が癌化することによって生じる悪性疾患ですが、骨髄の中でストローマ細胞と呼ばれる細胞群と密接に関係を保つことによって通常の化学療法では難治性を示す事が知られていました。近年、サリドマイドやレナリドマイドといったIMIDsと呼ばれる薬剤やベルケイド(プロテアソーム阻害薬)が登場したことによって、治療成績は格段に向上しました。このような状況においても、従来から用いられてきたステロイド(特にデキサメサゾン)は治療では欠かすことの出来ない重要な薬剤の一つです。しかし長期間治療を行うと、デキサメサゾンに耐性を示す事もしばしば経験されることであり、デキサメサゾン耐性を克服する事は治療成績を向上させるために重要な要素の一つです。我々はデキサメサゾン耐性の骨髄腫細胞株を樹立し、その特徴を解析してきました(Koizumi et al. Eur J Haematol. 2007 Nov;79(5):382-91. Ohwada et al. Eur J Haematol. 2008 Mar;80(3):245-50.)。現在もデキサメサゾン耐性株に高発現している遺伝子に着目して、基礎検討を続けています。

TEL(ETV6)-Lyn融合遺伝子による骨髄線維症発症機構の解明

 骨髄線維症という疾患は、主に高齢者に認められる比較的まれな疾患で、近年ではその原因遺伝子としてJAK2遺伝子の変異(真性多血症や本態性血小板血症の一部の原因遺伝子として同定された変異)を伴う症例が一定の割合で存在することが知られるようになってきました。
   我々の研究室では、若年の難治性の骨髄線維症患者より、これまでに知られていなかった新規融合遺伝子であるTEL(ETV6)-Lyn融合遺伝子を同定・クローニングし、レトロウイルスによるマウス造血幹細胞(HSC)への遺伝子導入を行い、その機能解析を行いました(細胞分子医学 岩間厚志教授との共同研究。Tanaka et al. Leukemia. 2010 Jan;24(1):197-200. Takeda et al. Br J Haematol. 2011 Jun;153(5):589-98.)。in vitroの実験では、サイトカインを添加せずにメチルセルロース培地で培養することが可能であり、なおかつ血小板のもとになる巨核球、赤血球のもとになる赤芽球、好中球やマクロファージの3系統全てが含まれる事が分かりました。
   また、マウス移植モデルを用いて、移植後約3週間という非常に早期に骨髄線維症を発症させることにも成功しました。これまでに知られている骨髄線維症マウスモデルの中では最も早く骨髄線維症を発症する事から、強力な骨髄線維症発症作用を持つと考えられ、その下流のシグナルに関する解析も行いました。

   この一連の研究に於いて特筆すべきは、Lynの抑制作用を持つ第二世代の慢性骨髄性白血病治療薬であるダサチニブを用いることによって、TEL-Lynによる細胞増殖を抑制できる事を明らかにできたことであり、将来同じ原因遺伝子で発症した骨髄線維症の患者さんの治療に、実臨床において使用可能な薬剤を用いることでコントロールできる可能性を示す事ができたことであります。

このような、臨床から始まり臨床に還元できるような研究を中心に行う事を基本方針としています。

 

図3 TEL-Lyn遺伝子をマウス造血幹細胞に導入

TEL-Lyn遺伝子をマウス造血幹細胞にレトロウイルスを用いて遺伝子導入し、造血サイトカインを添加せずにメチルセルロース培地にて培養して出来たコロニー。大型のコロニーが認められ、このコロニーのサイトスピン標本では巨核球系、赤芽球系、骨髄球系の3系統の細胞が認められた。

図4 Dasatinibによるコロニー形成抑制

メチルセルロース培地にチロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブ(Lyn抑制作用なし)、ダサチニブ(Lyn抑制作用あり)を添加して培養した結果、高濃度のイマチニブでも抑制できなかったコロニー形成が通常濃度のダサチニブによって抑制された。

図5 TEL-Lyn導入マウスの生存曲線

TEL-Lyn遺伝子を導入したマウス造血幹細胞を移植した際の生存曲線。移植後30日以内にすべてのマウスが骨髄線維症を発症して死亡した。

図6 鍍銀染色した骨髄

TEL-Lyn遺伝子を導入した造血幹細胞を移植したマウスの骨髄を鍍銀染色したもの。黒く見えるのは線維化したため。