病気と治療

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てんかん治療

機能的疾患 てんかん -てんかんの外科治療-

千葉県立循環器病センター 脳神経外科
医療局長 峯 清一郎

てんかんの有病率は人口1000人に対し4-9人(0.4~0.9%)であり、我国のてんかん患者数は約100万人とされています。そのうち20%は発作コントロールが不良で、難治性てんかんと呼ばれます。さらに、難治性てんかんの15%(約3万人)には外科治療の適応があります。しかし、実際に外科治療を受けている患者数は少なく、外科治療の存在すら十分に知られていないというのが現状です。難治性てんかんが疑われたらまずてんかん専門医の受診をお勧めします。日本てんかん学会には専門医制度があり、ホームページに各地域の専門医一覧が掲載されています。

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また、てんかん外科施行施設一覧を日本てんかん学会ホームページで見ることができます。

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1.てんかんとは

てんかんは、大脳皮質神経細胞の過剰興奮による脳症状(てんかん発作)が反復して発生する、慢性脳疾患と定義されます。人口の約10%で一生に1回は発作が出現するといわれていますが、2回以上再発する場合をてんかんと診断することが一般的です。

てんかんの原因

てんかんは原因により特発性てんかんと症候性てんかんに分類されます。特発性てんかんでは脳にてんかん発作を起こしやすい素因が存在します。てんかん以外に脳の精神運動機能異常を認めず、画像診断は基本的に正常です。一部の特発性てんかんでは原因遺伝子が特定されています。症候性てんかんでは脳にさまざまな器質的病変が存在するためにてんかん発作が生じます。脳の精神・運動機能異常を合併することもあり、そのような患者さんではてんかん発作は病変の一症状とも考えられます。画像診断で器質性病変の認められることが多いのですが、何割かの患者さんでは検査で異常が発見されず、てんかん外科手術ではじめて瘢痕や萎縮あるいは大脳の形成異常(奇型)の認められる場合があります。

てんかん発作とその分類

てんかん発作は通常突然起こり、短時間で消失します。発作の持続時間は数秒から数分以内です。発作は同じ形で繰りかえされることが多いです。5-10分以上止まらない時はてんかん重積といい、救急疾患として病院を受診する必要があります。てんかん発作は大きく全般発作(最初から脳全体が発作を起こす)と部分発作(脳の一部分から発作が起きる)に分けられます。全般発作でよくみられるものは大発作(正式には全般性強直・間代発作と呼びます)です。欠神発作のように10-30秒程度ぼーっとした状態(欠神状態)のみで終始するものもあります。部分発作と呼ばれる脳の一部分のみが異常発火する場合には、意識混濁、自動症、体の一部分のみの運動・感覚異常が出現します。

2. てんかんの診断

てんかんはてんかん発作型(部分てんかん発作あるいは全般てんかん発作)と、原因(特発性あるいは症候性)の組み合わせにより4種類に分類されます(てんかん症候群診断)。その診断は、病歴、発作の状況、脳波(発作間欠期脳波、ビデオ脳波)、神経画像(MRI、CT、SPECT、PET)をふまえて総合的に行います。またてんかんと紛らわしい疾病もあり、当初てんかんが疑われていたが最終診断はてんかんではなかったということもめずらしくありません。てんかんと鑑別を要することが多い疾患は失神、脳血管障害、不整脈、心因反応、薬物・アルコール中毒、代謝性・内臓疾患等です。

てんかん発作の分析

てんかん発作は、てんかんの診断・治療方針に重要な手がかりを与えますので、発作の症状をよく観察することはきわめて重要です。その場合、発作がどのような形をしていたか(外から見た症状)と、患者さん本人がどのように感じたか(発作を覚えている場合)、の両者の情報が必要です。医師が発作を実際に観察できることは少なく、患者さんからの情報のみから診断することが普通です。

てんかんの検査

てんかんの主たる検査は、脳波検査と画像検査です。脳波では大脳皮質神経細胞の興奮を反映する突発波と、脳の機能異常を反映する徐波を調べます。画像検査では、てんかんの原因となる脳の器質的疾患を調べます。血液・尿検査も必須です。

脳波: 通常外来で行う脳波は、発作間欠期(発作を起こしていない時)の記録です。発作時の記録が必要なときは、入院して長時間ビデオ脳波記録を行います。
CT、MRI: 両者とも脳の構造異常を調べる検査で、てんかん患者さんには必須の検査です。症候性てんかんの場合には特に重要です。MRIは脳の詳細な構造を画像化できます。CTは短時間で検査でき、脳の石灰化や頭蓋骨の形状を検出します。
SPECT: 脳血流あるいは、脳の抑制性伝達物質受容体を検査する核医学検査で、てんかん病巣の部位診断に貢献します。てんかん焦点は脳血流が低下 あるいは抑制性伝達物質受容体が減少している領域として現れます。
PET: 脳のブドウ糖代謝を測定します。てんかん焦点ではブドウ糖の取り込みが低下しています。
血液、尿検査: てんかんの原因検索(低カルシウム血症などけいれんをおこしやすい状況がないかどうか)と、抗けいれん薬の血中濃度測定、副作用検索を目的とします。

3. てんかんの治療

てんかん治療の基本は薬物療法、すなわち抗てんかん薬の内服です。

抗てんかん薬

抗てんかん薬は、脳の異常興奮を抑制する薬です。現在の抗てんかん薬の作用は、てんかんの原因を治すというより発作を抑制することが主で、てんかんが治りやすい環境にすると理解されます。現在わが国では10種類以上の抗けいれん薬が市販されています。薬の選択に関して、ガイドラインでてんかん症候群別の指針があります。部分発作は カルバマゼピンが、全般発作はバルプロ酸が第一選択薬として推奨されています。服薬量は薬剤ごとに投与量と推奨血中濃度が決まっています。

治療開始の時期

通常は、発作を繰り返したら投薬します。しかし初回発作でも、様々な要因で発作を繰り返す確率が変わることが知られています。脳にすでに様々な障害が存在する場合や脳波にてんかん波が存在する場合には繰り返す確率が高くなるので、検査結果をふまえた上で投薬時期を決定します。

抗てんかん薬の副作用

各抗てんかん薬特有の副作用が知られています。過量になると正常な神経細胞の働きを抑制します(眠気やだるさ)。

①服薬初期に注意する副作用 : 眠気やふらつきが出現します。軽度の場合には慣れてきて消失しますが、慣れない場合には投与量を減らす場合もあります。体質による副作用として薬疹があります。薬疹の出現時期はまちまちです。薬疹が出現したら通常断薬します。
②長期間服薬時に注意する副作用 : 肝機能障害や腎機能障害、また貧血や白血球減少などに注意します。また抗てんかん薬によっては歯肉が腫れたり、多毛・脱毛になったりします。

①服薬初期に注意する副作用: 眠気やふらつきが出現します。軽度の場合には慣れてきて消失しますが、慣れない場合には投与量を減らす場合もあります。体質による副作用として薬疹があります。薬疹の出現時期はまちまちです。薬疹が出現したら通常断薬します。
②長期間服薬時に注意する副作用: 肝機能障害や腎機能障害、また貧血や白血球減少などに注意します。また抗てんかん薬によっては歯肉が腫れたり、多毛・脱毛になったりします。

服薬期間

服薬を開始した場合に、抗けいれん薬をいつまで服薬するかの基準に関してはまだ明確なものはありませんが、最終発作後2-4年、脳波異常が2年以上消失してからが望ましいとされています。また発作の再発に関しては薬剤中止後3年以内が多いということより定期的に脳波検査はおこない経過観察する必要があります。抗てんかん薬の場合、発作がないからといってすぐにはやめられません。いきなりやめると大きな発作が突然再発する場合があるからです。少しずつ減量して中止します。

小児てんかんでの特殊治療

ウェスト症候群に対しては、ACTH治療や副腎皮質ホルモンが積極的に使用されます。またレノクス・ガストー症候群などにはケトン食という食事療法があります。これらは小児てんかん専門医が行います。

4. 難治性てんかんについて

難治性てんかんとは

そのてんかん症候群または発作型に対して適切とされている抗てんかん薬の2-3種類以上を、単剤あるいは多剤併用で、十分な量を投与し2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されずに日常生活に支障をきたす状態を難治性てんかんとしています。

難治性になりやすいてんかん

症候性部分てんかん: 脳血管障害、先天性脳形成異常、脳腫瘍、脳炎、海馬硬化等の頭蓋内疾患を原因とするてんかんです。海馬硬化を合併する症候性部分てんかんが最も難治です。
症候性全般てんかん: レクノス・ガストー症候群等

見せかけの難治てんかん

てんかん症候群・てんかん発作診断の誤り、治療薬選択の誤り、治療薬使用量の誤り、コンプライアンス不良等により、適切な抗てんかん薬が十分に使用されないで発作のコントロールが不良の場合、見せかけの難治性てんかんと呼びます。

難治性てんかんへの対応

てんかん発作分類、てんかん症候群診断、投与薬剤をすべて見直します。
まず、見せかけの難治性てんかんをまず排除します。
真の難治てんかんに対しても薬物療法の再検討、過去に投与された抗てんかん薬の作用機序に注目して、異なった作用機序の薬剤を選ぶ等の作業を行い、最近では新規抗てんかん薬を試みます。それでも発作コントロールが不良の場合には外科適応の検討を行います。

5. てんかんの外科治療

手術の原理と手術法

手術方法は焦点切除手術と遮断手術に分けられます。

焦点切除術: てんかんが発生する脳の部位を焦点と呼び、焦点を切り取る手術を焦点切除術といいます。焦点を完全に切除できれば発作の抑制が期待できます。
遮断手術: 遮断手術は脳の発火が伝わる経路を断ち切る方法です。脳梁離断術は代表的な遮断手術で、左右の大脳半球を連絡する脳梁を離断します。転倒発作、失立発作に有効です。軟膜下皮質多切術は大脳皮質を5mm間隔に離断する手術法で、焦点が運動野や言語野にあって切除ができない場合適応となります。

手術適応

難治性てんかんであり切除手術や離断手術が可能と判断できる場合に手術適応が生じます。

日本てんかん学会、日本神経学会のガイドラインでは、手術が可能なてんかんを5つのグループに分けています。

a. 内側側頭葉てんかん
b. 器質病変が検出された部分てんかん
c. 器質病変を認めない部分てんかん
d. 一側半球の広範な病変による部分てんかん
e. 失立発作をもつ難治てんかん

a-eのすべてが症候性てんかんで、しかも局在関連性(焦点性)がほとんどです。MRIで器質性病変の認められるてんかんは外科適応を決めやすいのですが、MRIで器質性病変を認めない場合には適応を慎重にすべきであると言われています。

また、1990年に米国国立衛生研究所コンセンサス会議が開催され、難治てんかんについて以下のような難治性てんかんの定義と手術適応が提唱されました。

  1. 難治性てんかんの定義
    専門医が多剤治療を2年以上施行しても1回/週-月以上の発作を認める
  2. 外科手術の対象となる発作型
    切除しても神経脱落症状を生じない大脳領域にてんかん原性焦点がある部分発作
    二次性全般化発作
    転倒発作・失立発作
    一側大脳半球に多焦点を有する小児てんかん
  3. 精神発達遅滞、精神疾患、生命予後に影響するような合併疾患がない
  4. 発作の改善・消失が得られれば社会復帰が可能である
  5. 基本的には年齢による制限はない

これらが手術適応の基本ですが、画像診断で器質性病変が認められ切除手術によりてんかん発作の抑制が期待できる場合や、器質性病変は認められないが特徴的な発作症状と脳波所見を兼ね備えている場合には外科治療を考慮する脳神経外科医が増えています。一般的に年齢や病悩期間で手術適応を制限することはありません。術前検査、全身麻酔、開頭術が可能ならば手術を考慮してもよいでしょう。小児では、繰り返す発作が脳の発達に悪影響を与える可能性があるので、早い手術が望ましいとする意見もあります。医療経済学的にも外科治療の優位性は証明されています。

てんかん外科治療前の検査

2.てんかんの診断の項目で、てんかんの一般的検査を紹介しましたが、外科治療を前提にした場合下記のような精密検査を行います。

【非侵襲的検査】
【侵襲的検査】
【術後検査】

手術結果

側頭葉てんかんに対する焦点切除では約80%、側頭葉外てんかんに対する焦点切除では約70%の患者さんで発作の消失か改善が得られています。脳梁離断は発作が完全に消失することはまれですが、70%以上で発作の改善がみとめられます。内側側頭葉てんかんの外科適応例は外科治療が内科治療よりも優れているということが科学的に実証されています。適応を選べば、てんかん外科手術は発作を改善させる効果があるわけですが、それ以外にも、生活の質の改善、就業・就学の改善、小児では精神発達・行動異常の改善が認められています。

迷走神経刺激

切除手術、遮断手術ともに発作を抑えることができなかった難治性てんかんの患者さん、あるいはこれらの術式の適応が無い難治性てんかんの患者さんを対象として、迷走神経刺激手術を行います。

手術後の薬物療法

手術後発作が消失しても、しばらく(1-数年)は抗てんかん薬を服用する必要があります。発作コントロールがよければ断薬のチャンスもありますが、断薬は発作再発のリスクがあり完全に断薬できるのは20%くらいといわれています。その人の社会生活に応じて個別に決めています。運転免許証が断薬を決める際の要素となることが多いのが最近の傾向です。

手術費用と公的援助

術前検査、頭蓋内電極留置術と焦点切除術を含めて、入院費・手術料の総額はおよそ200万円位ですが、現在は健康保険が適応されます。県によっては、受領委任制度を設けて国民健康保険世帯の支払い負担額を軽くしているところがあります。課税世帯と非課税世帯で違いがあるので詳しくは医事課の担当者と相談してください。小児の場合、小児慢性特定疾患に対する補助制度があり、入院中の医療費が全額公費によって援助されます。てんかんで対象となるものは、ウエスト症候群(点頭てんかん)と結節性硬化症等です。

6. その他 てんかんに関するコンサルティング

治療終結を考えている患者さん

2年以上発作が消失していれば断薬を考えても良いと言われています。社会生活、運転免許証、てんかん症候群診断による断薬後の再発率の差異、を考慮して、患者と医師と相談の上減薬、断薬を決めます。

妊娠を考えている患者さん、既に妊娠された患者さん

妊娠・出産についての基礎知識、生活・服薬指導、計画妊娠指導を行います。地域の産婦人科医院で妊娠の経過を見ている患者さんが、当院で出産することも可能です。