臨床研究

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研究情報:後ろ向き研究による椎骨脳底動脈解離に対する治療および転帰の調査

平成8年,山浦らにより行われた本邦初の非外傷性頭蓋内解離性動脈病変の全国調査の報告,平成18年10月から「後ろ向き研究による調査票を用いた脳動脈解離の実態調査SCADS-Japan I」および「頭蓋内脳動脈解離の国内多施設共同前向き観察研究SCADS-Japan II」(平成18年度循環器病研究委託費(18 公―5))が行われ,椎骨脳底動脈解離の実態は徐々に明らかとなってきました.しかし,虚血発症の動脈解離に対する抗血栓療法の是非,出血発症の動脈解離の虚血合併症の頻度,虚血・出血を伴わない頭痛発症の動脈解離の治療方針など多くの未解決の問題が残されています.
脳卒中治療ガイドライン2009で提唱される虚血発症の動脈解離では,アスピリンやワーファリンなどの抗血栓療法がGrade C1で推奨されているものの,抗血栓療法の妥当性を指示するこれまでの報告は,内頸動脈系もしくは頭蓋外椎骨脳底動脈解離です.我が国ではじめて行われた動脈解離に関する全国調査でも抗血栓療法の有無で転帰は変わらず,SCADS-Japan Iの報告でも,抗血栓療法に転帰の優位性は示されていない状況です.頭蓋内椎骨動脈解離に対する抗血栓療法のエビデンスはいまだ確立されておりません.
一方,出血発症の動脈解離では,再出血予防の観点から血行再建を含めた早期の治療が検討されるものの,低侵襲性の観点から血管内治療を中心に治療が行われています.治療に伴う椎骨動脈の穿通枝障害,後下小脳動脈領域の虚血症状が生じる可能性が高いため,後下小脳動脈温存する方法を併用するなどおこなわれているものの,虚血性合併症の程度および頻度は明らかとはなっていません.
頭痛のみを呈する動脈解離は,非特異的な症状ゆえ発見されず,明らかな発生頻度も不明です.平成18年の全国調査でも対象とされておらず,治療方針はもとより,続発する虚血・出血の頻度も不明であります.
 本研究は,統一形式の調査票を用いた椎骨脳底動脈解離の治療の実態と転帰の実態を全国の脳卒中医療に携わる脳神経外科施設にアンケート調査を行い,本邦における椎骨脳底動脈解離の治療,転帰などの実態を明確にすることを目的としています.

 全国脳神経外科施設の多大な御協力で,平成25年9月現在で,600症例以上のご登録をいただきました.本当にありがとうございました.現在,倫理委員会などによりご回答が遅れている施設をお待ちしているところです.結果に関しましては,今後学会,論文などによりご報告させていただきます.