本研究は、体細胞分裂型と減数分裂型における細胞周期制御の違いを明らかにすることを目的とする。減数分裂は細胞周期の特殊なバリエーションとみなすことができ、体細胞分裂との比較に基づいた理解が求められる。両者を比較すると、いくつかの顕著な違いが存在する。例えば、減数第一分裂前期(meiotic prophase I)は通常の体細胞周期のG2期に相当するが、精母細胞においてはおよそ10日間という長い期間を要し、染色体組換えや相同染色体の対合など、減数分裂特有のイベントを進行させる猶予を与えると考えられる(図4)。また、第一分裂M期の終了後にS期を経ずに直ちに第二分裂M期へ進む点も、通常の細胞周期には見られない際立った特徴である。このように、細胞周期制御は減数分裂仕様へと大幅に特殊化されているが、その分子基盤は十分に解明されていない。
特に、体細胞分裂のG2期で働くE2F転写因子やDREAM複合体などが、減数分裂においてはサブユニットや相互作用因子を切り替えながら、標的遺伝子の活性化パターンや特異性を変化させている可能性がある。本研究では、meiotic prophase Iの特定ステージで遺伝子をピンポイントに不活化・ノックダウンできる新規マウス解析系を構築し、体細胞分裂G2期と減数分裂meiotic prophase Iにおける遺伝子発現制御機構の違いを明らかにする。さらに、細胞周期進行に中心的役割を担うユビキチンリガーゼ複合体(Tanno et al, Scientfic Rep. 2020, Tanno et al, iScience 2022)やシグナル伝達経路に注目し、それらが減数分裂特有の素過程において果たす役割を、酵素・基質・調節機構の観点から明らかにする。
図4 減数第一分裂前期は細胞周期G2期に相当し、タイムスパンが延長化・特殊化されている